必死に考える自分

必死に考える自分の耳に予期せぬ声が聞こえた。船長を投げ落とした男が、海に沈む船長に向かって罵声を吐いた声だった。

「お前みたいな男は鮫に食われたらいいんだよ」

 それを聞いた回りの群集は笑い声を上げている。その場に居た人は皆同じ気持ちだったのだろう、その気持ちは分かった。私達がおかれた状況だ。どん なに考えても私達が助かる方法は偶然に頼るしかなかった。

つまり自分達の生命の保証は何処にも無かった。

 その責任はこの船を操っていた船長に有る。その事を否定する気はない。だが、暴言にも似た言葉を耳にした自分の性格が変わっていた。その男に近寄 り何も言わずに殴りかかった。

 一人の男を持ち上げるだけの力の持ち主。俺の力では敵わない事は分かっている。それを承知の上で右手を握って作った拳に力を入れた。あっけなかっ た。その男は五メートルほど飛んで床に転がっていた。

 船長の想いが俺に力を授けたのか、それとも死神が俺の代わりに殴ったのか、とにかく俺がその男を殴り倒した事に間違いなかった。ところが、その シーンを見ていた群集に不穏な雰囲気が漂い始めていた。皆俺を睨んでいる。

『悪魔をたおしたヒーローを彼が殴った』

 そんな目付きだ。状況は最悪になりつつある。この場にいれば危険だ。群集心理が働き、俺の身に危険が迫る可能性があった。早くこの場から逃げ出す 事が先決だ。その前に倒れた男に名を聞いた。

「お前、名前は」

「大下だ」

「お前、覚えておけよ。日本に帰ってから……」

>>>俺はそう言ってその場

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