そう感じた時、船長の顔

そう感じた時、船長の顔には死神の顔が重なっているように見えた。私が、何かの拍子に死の世界に迷い込み、死神の顔を見て知っている。そんな体験は 無かったが、船長がもがき、苦しみ、人に助けを呼ぶ、そんな死に物狂いな形相から想像したものだった。

 浮かんでいるようにも見える死神は、船長から逃げ出すかのように、自分に襲い掛かって来た。それは死神が次のターゲットに自分を選んだのか、それ とも船長自身が死神だったのか、それともそれ以外の理由があったのか、私には分からなかった。

 突然船長が断末のうめき声を上げた。間違いなく、この世の終わりを告げる叫びだ。その声が海に反射して木霊した。

 海中には赤い物が広がっていた。まるで赤色の絨毯を広げていくようだ。それを見るしか出来ない自分には妙な感覚があった。海に広がる赤い絨毯には 船長の断腸の思いが沁みこんでいる。

 四〜五秒後、いや本当は一秒にも満たない時間だったのかも知れない、船長は自分の顔をじっと睨んだまま何かに引きずりこまれるようにして海の中に 沈んでいった。

船長の姿が海に敷かれた赤い絨毯の中にゆらゆらと見える。彼の手が私を呼んでいるのが見える。赤い絨毯はさらに海中に広がって行く。『まだ 助ける方法がある』

 そんな気もした。『どうすれば助かる。どうすれば助ける事が出来る』

>>>必死に考える自分

603025.jpg