そしてその男の顔が

そしてその男の顔がエクスタシーを感じた瞬間の顔になった。その顔が悪い予感を想像させる。危ない。船長のすぐ後には海が見える。本気で船長を海に 落とす気だ。

「そらよ」

 その掛声と共に一瞬、男の姿が視界から消え、船長が宙に舞った。男が腰を落として船長の足首を握り、そのまま立ち上がったのだ。不意を突かれた船 長は宙に浮いた後、そのまま海に落ちていった。驚いたのはその男の力だ。そんなに簡単に七十キロ前後の人を宙に浮かす事が出来るのだろうか。

 いや、それよりも今は船長の救助が先だ。私は船内を見渡した。長い柄が付いたほうきが見えた。それを掴んで船長が落とされた辺りに近寄った。その ほうきの、柄の方を船長に向かって差し出した。その細い柄にしがみつく船長。『助かった』  そう思った瞬間、船長が暴れだした。まるで『助けてくれ』と言わんばかりだ。意味が分からなかった。既にほうきの柄にしがみついている人が、なぜ 救助を求める必要がある。その船長がじっと自分を見詰める。自分もそれに答える様に船長の顔をじっと見入る。

『もうこの人は助からない』

 そう感じた時、船長の顔には死神の顔が重なっているように見えた。私が、何かの拍子に死の世界に迷い込み、死神の顔を見て知っている。そんな体験 は無かったが、船長がもがき、苦しみ、人に助けを呼ぶ、そんな死に物狂いな形相から想像したものだった。 。

>>>そう感じた時、船長の顔

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